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前橋地方裁判所高崎支部 昭和33年(わ)243号 判決

被告人 林祐忠

明二四・二・二七生 質屋業

主文

被告人を懲役八月に処する。

ただし、この裁判が確定する日より三年間

右の刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和六年ころから肩書住居において質屋営業をなし来たりたる者であるが、昭和二十五年十月頃宮崎準二郎および米山信二郎の両名の窮境を救済するため立てられた所謂頼母子講に世話人として招ねかれ、これが成功したことより、被告人自身が講元となり貯金会なる名義のもとに会員を募集し、多数の会員を参加せしめて継続的に掛金を集め、手数料および茶菓料名下に金銭を取得し、「森川商事」なる名称を使用し営利の目的を以て、大蔵大臣の免許を受けないで、昭和二十六年二月十五日ころから昭和三十一年八月十八日ころまでの間にわたり、意思を継続して自ら講元となり肩書住居において、別表記載のとおり北沢宣誉外二百十五名の各加入者等に対し一定の期間を定め、毎月右加入者に所定の掛金をさせ毎月一回入札して「せり」をなし、落札者に対して一定の割合による金員を給付する旨を定め、被告人は、手数料乃至茶菓子料名義のもとに所定額の金員を控除する方法により合計約金四千四百四十五万一千円の掛金を受入れ、以て相互銀行業を営んだものである。

(証拠の標目)(略)

(被告人および弁護人の各主張に対する判断)

一、被告人は本件所為が相互銀行法に違反することを知らなかつたと主張するが、法律の不知が故意の成立を阻却しないことは、刑法第三十八条第三項本文の解釈上すでに確立せられているところであるから、右主張はこれを容れることができない。

二、弁護人は、

(1)  被告人は判示手数料および茶菓料はこれを全部実費として費し、なんら利益を得ていないから、被告人の本件所為は営利の目的がなく営業としてなされたものでないから、相互銀行法違反は成立しないと主張するが、前掲各証拠を綜合すれば、被告人が手数料および茶菓料名下に所得した金銭の一部を実費としての名目の下に徴集したことは肯認しうるのであるがその残金およびその余の受入金全部の運用については被告人が利得し、また判示掛金の一部を自己の質屋営業その他に利用しようとする目的を有していたことが明らかである。而して斯る目的を以て判示所為を反覆継続したものであるから被告人の所為は営業としてなされたものといわざるを得ない。ゆえに弁護人の右主張はこれを採用することができない。

(2)  本件無尽は草津町における庶民金融として欠くべからざるものであり、被告人の本件犯行と類似する行為が今日なお公然として同地に行われつつあるを以つて被告人の所為を法律違反として処罰することは右の現実を無視するもので法の所期せざるところであるから被告人は無罪であると主張するが判示所為は法定の手続を経て大蔵大臣の免許をうけ適法になすことができる行為であるのみならず、本件各証拠を綜合考察するに被告人の本件所為は草津町の存立上不可欠のものとは解し得ない。よつてこの主張も亦これを採用することはできない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は包括して相互銀行法第二十三条、第二条第一項第一号、第三条第一項、第四条に該当するので所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期の範囲において被告人を懲役八月に処し、諸般の情状により刑法第二五条第一項を適用し、この裁判が確定する日から三年間右の刑の執行を猶予する。訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用してその全部を被告人の負担とする。

以上によつて主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本孝夫)

別表

番号

加入者

口数

掛金受入期間

毎月掛金

掛金受入総額

1

北沢宣誉 外三一名

三四

自昭和二六年二月一五日ころ

至昭和二九年二月一五日ころ

四、〇〇〇円

五、〇三二、〇〇〇円

2

鈴木賢祐 外一五名

一九

自昭和二六年四月一〇日ころ

至昭和二八年四月一〇日ころ

二、〇〇〇円

九五〇、〇〇〇円

3

桜井貞雄 外一八名

二二

自昭和二六年八月五日ころ

至昭和二八年八月五日ころ

四、〇〇〇円

二、二〇〇、〇〇〇円

4

山崎安一郎 外一三名

二二

自昭和二六年一一月二七日ころ

至昭和二九年八月二七日ころ

三、〇〇〇円

二、二四四、〇〇〇円

5

北沢宣誉 外一六名

一九

自昭和二七年一月二二日ころ

至昭和二九年一月二二日ころ

六、〇〇〇円

二、八五〇、〇〇〇円

6

水口岩雄 外二五名

二八

自昭和二七年七月二五日ころ

至昭和二九年一二月二五日ころ

一〇、〇〇〇円

八、四〇〇、〇〇〇円

7

八村はつえ 外一二名

二一

自昭和二七年九月一〇日ころ

至昭和二九年九月一〇日ころ

二、〇〇〇円

一、〇五〇、〇〇〇円

8

荒木浅次郎 外一七名

二二

自昭和二七年一二月一八日ころ

至昭和二九年一二月一八日ころ

四、〇〇〇円

二、二〇〇、〇〇〇円

9

浅見五郎 外二一名

二七

自昭和二八年四月一二日ころ

至昭和三〇年一一月一二日ころ

一二、五〇〇円

八、八一五、〇〇〇円

10

吉田兼好 外一八名

二一

自昭和二八年八月五日ころ

至昭和三〇年八月五日ころ

一〇、〇〇〇円

五、二五〇、〇〇〇円

11

八村はつえ 外一八名

二四

自昭和二九年三月一八日ころ

至昭和三一年八月一八日ころ

一〇、〇〇〇円

五、四六〇、〇〇〇円

合計    四四、四五一、〇〇〇円

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